加藤典洋『敗戦後論』について②:文学の意味

 この本を読んだら何の役に立つか、どんな効能があるかアピールする題名をつけた本がやたら目につく。ネットでさまざまな情報や娯楽に触れられる中、移り気で気の短い消費者の関心を、何とか紙の活字という古い媒体へ引き留めようと工夫をしているのだろう。

 一方、小説は題名だけでは読む価値があるのかどうか分からない。アニメっぽいデザイン、アイドルや有名人の顔写真など目をひく装丁が多くなったのも、そのせいかもしれない。効能を書き連ねた医薬品のパッケージのような本の装丁に慣れると「小説を読んで何になるのだろう」「しょせん作り話じゃないか」という疑いが浮かぶ。

 こんなことを考える頭にガツンと一撃をくれるのが本書である。何の役に立つかという疑問を遥かに通り越し、気が滅入りそうに果てしなく根本的な疑問に正面から向き合う。文学は何のためにあるか。世に広められている正しさや論理の明快さだけではすくい取れない、どうしようもない不条理な心の叫びを文字に焼き付けるのが文学。そもそも正しさは本当に正しいか。人間の精神活動の果てに向かっているのかもしれない。しかも、戦争という極限の混乱状況に直面した太宰治やサリンジャーといった作家たちの小説を題材に読み解こうとする。(T)

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