復帰間もない本島北部の素顔  国吉真永著『やんばる路を往く』

 原稿が執筆され本書が刊行されたのは1970年代の後半、沖縄が本土に復帰してまもない時期である。サブタイトルに「ルポ・人と風土の今むかし」とあるが、本書に書かれた「今」も、現在からみれば「むかし」と化している。著者は沖縄タイムス記者として名護支局などを経験しており、現地をこまめに回って集めた情報を、わかりやすい文体でまとめている。現在はほとんど聞かなくなった地域の風習や、本島との間に橋がかかる前の離島など、ここ数十年で本島北部がどのように表情を変えたかが透けて見えてくる。

 借金と引き換えに糸満の漁師のもとに身売りされる「糸満売り」後に本島北部で暮らす人から直接聞いた話は貴重だろう。著者自身も「意外」と評する。「(話を聞いた三人とも)糸満売りを不幸だったとも、苦しかったとも思っていない(中略)それどころか、自分が犠牲になることで家族が救われることに“誇り”さえ抱いていたように思えてならぬ」とつづる。糸満売りされた人が楽天的だったというより、糸満売りを不幸とは感じさせないほど当時の貧困がすさまじかったとみるべきだろう。(T)

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