沖縄で昔話の源流を探る 柳田國男著『桃太郎の誕生』

 沖縄の昔話「黄金の瓜」は、放屁したとして首里城から追放された妃が城外で生んだ息子が、黄金の瓜を利用して国王に妃追放の非を認めさせ首里城に戻るという物語である。一部の地域では史実のごとく信じられていたが、話の舞台や登場人物が異なるものの「放屁したとして追放される女性」「息子が母親の名誉を回復する」の骨格をとどめた物語が、壱岐島、岩手、大分など国内各地に伝わることを柳田は本書の中で明らかにする。

 「黄金の瓜」ついては、沖縄で広く知られているだけに、本書の記述は意外に感じた。柳田自身も当初、「黄金の瓜」は沖縄固有の昔話と思い込んでいたと語っている。しかし、「黄金の瓜」に限ったことではない。「桃太郎」「浦島太郎」など全国的に有名な昔話についても、各地の昔話を採取し比べることによってまったく別の物語ではなく、時代とともに移り変わった形跡を読み取ることができる。もともとは一つの物語が、新たな要素を取り入れ別の物語に分かれた可能性も十分考えられる。

 では昔話はなぜ変化するのか。より面白く興味をもって聞いてもらえるように話し手が内容を変えるからであり、聞き手の意識や信仰の移り変わりを反映したと柳田は指摘する。例えば、東北地方には、川を流れてきた瓜から生まれた女の子を老夫婦が育てる「瓜子姫」の物語が広まっていたが、これは有名な「桃太郎」より早く誕生し、「かぐや姫」に近いところで発生したことが考えられる。庶民の間に桃が広まるのは瓜よりだいぶ後である。

 「瓜子姫」「桃太郎」「かぐや姫」いずれも、のちに偉業を成し遂げる人物は出生の時から一般の人とは異なることを表し、「瓜子姫」と「桃太郎」はともに水に運ばれてやってきており水の神への信仰が認められる一方、「桃太郎」には「桃」から生まれるという点で中国の影響が感じられる。柳田は断定していないが、「黄金の瓜」も「瓜子姫」の流れにあることを示唆している。文字を持たなかった庶民の意識を探る上で、庶民の口から口へ伝えられた昔話の変遷や分布に目をつけたところは柳田の慧眼だろう。(T)

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