心の反乱はやがて制御不能に? 泉谷閉示著『「普通がいい」という病』

 本書では人間の内部を、「理性(頭)」と「心(本来の自分)」に分けて考える。幼い時期は、心のままに振舞うが、成長するにつれて社会に適応するため、心を制御する方法を学ぶ。社会の仕組みや決まりごとに心を合わせる。理性の働きが高度に発達した社会を築き、人類を進歩に導いたことは否定できない。

 しかし、過度に他人や決まり事に合わせようとすると、心が反発し体も含めて拒否反応を示すようになる。これが表題の「『普通がいい』という病」である。この病が複雑なのは、本人が病であるという自覚が薄いことだ。心は理性で制御できるものと思い込んでいる。特に、同調圧力の強い日本では、多数派に倣うことが日常化し、自分の心があることすら忘れがちだ。

 本書の第1刷が発行されたのが2006年。すでに15年以上が経過した。だいぶ前に購入した本だが、何となく気になって改めて読んでみた。少なくとも現在の日本を見るかぎりは、病は快方に向かうどころか、悪化し社会に広く浸透しつつあるように思える。社会の主流派や多数派にそろえようとする圧力は、自分自身だけでなく、他人に対しても向けられ、より凶暴性を帯びている。政界では「忖度」と呼ばれ、ネット上などでは「自粛警察」といわれる現象が典型例ではないだろうか。(T)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です