戦争を終わらせる苦悩 田宮虎彦著『夜 ある手記から』
集英社クリエイティブ編『戦争と文学8 オキナワ 終わらぬ戦争』から⑦
今日(6月23日)、沖縄は慰霊の日を迎え、80年前の凄惨な沖縄戦を振り返るが、前日には米軍がイランの核施設を空爆し世界は一段と混迷の度合いを深めた。ウクライナに侵攻したロシアに続いて、米国も武力による紛争解決の道を選び、話し合いや外交による解決が世界各地で遠のいたことは明らかだ。

本作品は沖縄終結後も沖縄本島で逃避を続ける日本軍兵士たちが主人公である。混乱によって正式な情報や指揮命令が入らなくなる上、捕虜になったり降伏したりすることに対して「不名誉」「非国民」として拒む思想が脳裏に焼き付いていた。投降を拒み続けて米軍の攻撃を受けたり、米軍に投降しようとした兵士や住民が別の日本軍兵士から攻撃されたりしたため、失われずにすんだはずの命も失われた。沖縄戦の悲劇である。
戦争の恐ろしいところは簡単に始まっても、止めることは容易でない点だ。交戦する国々の面子もあり、停戦や終結にどのような条件をつけるかが最大の焦点になろう。戦争が長期化し被害が大きくなるに従って戦争終結の条件は妥協しづらいものになる。また、国の指導者レベルでなく一般国民でも受けた被害の大きさや内容によって受け止め方が違ってくる。さらに、現場の戦場が混乱するに従って情報や指揮命令が錯綜し、本作品のように日本のポツダム宣言受諾後も逃走や戦闘を続けた兵士が少なくなかった。兵士一人ひとりが戦闘をやめるかどうか判断することは非常に困難だったに違いない。