消えゆく那覇の路地裏
那覇の市街地を貫く大通りから1本横道にそれると、昭和の香り漂う路地裏があちこちに広がる。車の侵入を拒む細い路地には、わが物顔の猫が寝そべる。コンクリートも雨水の跡やひび割れが幾筋も入り、書かれた文字は薄れ消えかかる。隙間という隙間から雑草が顔を出し、壁には蔦がからまり建物を飲み込む。時には、小さな祠や香炉がほとんど目立たずに道端に置かれ、地域の祈りの場であることをうかがわせる。ほっとする空間である。時間は止まり、何かにせきたてられることもない。
こうした路地裏は文化財と呼ぶほど歴史的な価値があるわけではないにもかかわらず、本土に比べ残っているように思える。守られてきたというより、手がつけられなかったという方が実情に近いだろう。終戦後の混乱期、自然発生的に建物がつくられ権利関係が複雑に入り組み、大がかりな再開発が難しいという説を聞く。日本経済が長期の低迷期に入ったせいもあり、沖縄のような小さな島では、資金的にもリーダーシップの面でも計画的な都市づくりは容易ではない。それでも、終戦後の建設ブームで生まれた建物が寿命を迎え、農連市場や牧志公設市場など建て替え工事が進み、それに伴って周りに連なる路地裏の光景も消えていく。(T)