心に刺さるもう一つの兄妹の鬼物語 旧暦12月8日の鬼餅
明日(1月10日)は旧暦12月8日に当たり、沖縄では鬼餅(ムーチー)を食べる習慣がある。鬼餅とは写真のように、笹の葉に似た光沢を持つ月桃の葉にくるんだ餅であり、寒さの厳しくなる時期に栄養のあるものを食べて健康を保つ意味があるらしい。鬼餅と呼ばれるのは、ある伝説が起源となっているからだ。
伝説は大ヒットしたアニメ「鬼滅の刃」と同じく、鬼にまつわる兄妹の物語だが、話の展開はまったく真逆だ。鬼餅伝説では、鬼になったのは兄。しかも、勝手に他人の家畜を捕まえて食べるなど村人に迷惑をかけ手に負えなくなったことから、妹は兄を成敗、つまり殺してしまう。鬼退治に餅を利用したことから鬼餅の名前がついたが、「鬼滅の刃」のように共感できる感動物語ではない。むしろ冷酷とさえ思える。
ではなぜ、庶民の間で語り継がれる伝説になったのだろうか。一つの説を考えてみた。伝説が生まれた時代には、家族への愛情など個人的な感情よりも公の秩序を優先するのが当たり前。村の平安を守るという名のもとに、実の家族に手をかけることを迫られる状況が珍しくない。だから、村人をこれ以上苦しめられないと心を「鬼」にして、妹が実の兄を葬り去る物語にはリアリティーがあり、心に刺さるものがあったのかもしれない。