立松和平『砂糖キビ畑のまれびと』
著者の立松氏といえば、「旅する作家」のイメージが強い。報道番組「ニュースステーション」で自然豊かな風景を現地からリポートする姿が印象に残る。「海はあおいーです。空は……」のような感じで、ゆったりと、時には言葉の語尾を伸ばしながら、訥々と語りかける調子だった。
本書でも土に根付いて体験を重ねようとする立松氏の心意気が伝わる。主な舞台は沖縄の与那国島であり、1980年から毎年のように砂糖キビの収穫時期に島へ通った。1カ月以上にわたって農家に住み込み、刈り取りなどの農作業を手伝いながら、島の人々と親しくなり島の歴史や習俗を知り、離島が抱える悩みや苦しみ、矛盾を痛感する。奥付をみると1988年発行とある。もう30年以上前の本であり、古書店で見つけ、懐かしさも覚えながら購入した。
あの頃、若者の間には旅を求める空気があったと思う。都会の日常とは違う体験を味わい、自分を根底から変えたいという願望でもあった。与那国島の枕詞「日本最西端の島」は引き付ける力があっただろう。私も1980年代の半ば、与那国島を旅行した。当時は島外からやってきた若者が結構、働いていた。砂糖キビの収穫だけでなく、製糖工場にもいた。泊まった民宿では、一般の旅行客が泊まる建物とは別棟で、製糖工場で働く人が何人も寝起きしていた。午後9時を過ぎると、民宿の主人が泡盛と刺身を提供してくれ、製糖工場の人も交えて毎晩酒盛りとなっていた。
砂糖キビの収穫は私も試しに1日だけ手伝ってみた。砂糖キビは台風の強風でなぎ倒され、その後、倒れた場所から上に向かって伸び、再び台風に襲われまた倒される。年に何度も台風が島を襲うため、茎は地面をのたうつように伸びる。砂糖キビを刈り取る時には、鎌を持ったまま、絡み合い葉や枝に覆われた茎をたどり、根元を探し出し切り落とす。こうした作業を一本ずつ、中腰の姿勢のまま続けなければならなかった。1日だけでも、砂糖キビ刈りの厳しさが体の芯にしみ込んだ。(T)