故翁長知事が痛感した本土との落差
数年前、久しぶりに大学時代の友人と飲んでいると、「沖縄はなぜ辺野古での基地建設に反対するのか」と尋ねてきた。反対するのは納得できないというニュアンスを含んでいた。教師である友人は、権威にからめとられない自由な発想ができる人物と考えていただけに、ちょっとしたショックだった。基地に抗議する沖縄に対して、本土では否定的な意見が増えていることを改めて実感した。
2018年に死去した翁長雄志知事が、在任中に出版した『戦う民意』の中で、ここ数十年で政治家の態度が明らかに変わったことを記している。かつては与党の大物政治家は、沖縄戦とその後の米軍統治や基地負担に深い関心を寄せていたものの、2000年代以降、沖縄に対する冷淡さや無関心が目立つようになったという。中でも2013年、参議院予算委員会の委員8人が超党派で沖縄に来て、基地を抱える市町村の首長との意見交換会した時について次のように記している。
「普天間基地の県外移設に話が及び、地元の市長が『なんとか基地の整理縮小を』と話すと、自民党の三期目の議員が大声でこう言い放ちました。
『本土が受けないと言っているんだから、沖縄が受けるべきだろう。不毛な議論は止めようや』
沖縄のために調査に来た国会議員が、そういう言葉を吐く。(中略)私は絶望感にとらわれました」
普天間基地の移設について、官房長官だった菅義偉氏と5回にわたって協議を重ねたが、溝の深さを痛感した。「いくら歴史を語っても、菅官房長官からは『私は戦後生まれなものですから、歴史を持ち出されたら困りますよ』『私自身は県内移設が決まった日米合意が原点です』という答えが返ってきました」。
県内移設を沖縄が受け入れられない理由を、『沖縄と本土 いま、立ち止まって考える 辺野古移設・日米安保・民主主義』で次のように語っていた。
「私は、菅さんにこのように申し上げました。
『普天間の原点はそうじゃございませんよ。戦争が終わって、普天間に住んでいる人たちが収容所に入れられている間に、(土地を)強制的に接収されて、銃剣とブルドーザーによって、米軍の飛行場ができたんですよ』と。
それが、60年経って世界一危険だから、そして、老朽化しているからという理由で、それをお前たちがまた負担しろ、それが嫌ならば代替案を出せというのは、いくら何でも理不尽ではありませんか」
同書の中では、国家予算と基地をめぐる誤解についても触れている。新聞などで、沖縄県に3000億円の振興予算が決まったと書かれると、「それだけ予算をもらっているくせになぜ文句をつける」という声が出る。これに対して「各都道府県がもらった上に、さらに3000億円を沖縄がもらっているような感じを抱かれていると思うんですね。これはまったくの間違いでありますので、ぜひこれは認識を改めていただきたい」と反論した。沖縄以外の46都道府県は、それぞれの担当部が個別に必要な予算を国に請求するが、沖縄は長年、米軍統治下にあって慣れていないだろうと、内閣府が間に入って予算請求をとりまとめており、その総額が3000億円にすぎない。「人口1人あたりの地方交付税の額で沖縄は16位です(中略)特別に沖縄だけが飛び抜けているわけではない」という。