渡名喜明著『ひと・もの・ことの沖縄文化論』
自然科学は、細かく分解することによって本質に迫ろうとする。専門家でないので大きな声で言えないが、人間の生きる営みを分析する社会科学も同じ方向へ進んでいるのかもしれない。だが、本書はそれとは違う方向を目指しているように思える。文化について語る時、建築、芸能、歌謡など特定の「もの」や時期に絞る場合が多いが、本書は表題にもあるとおり、「ひと」「もの」「こと」の3者の関係性に注目する。文化を「もの」や分野に区分けせず、全体としてとらえようとする。各章は「差異」「美学」「異文化受容」「神・祭・共同体」などがキーワードになっている。こつこつと事実や検証を積み重ねる手法も重要だが、一方では、文化を直観力と俯瞰する力によってまるごと掴み取ろうとする力も必要なのかもしれない。本書でも紹介しているが、かつて芸術家の岡本太郎が沖縄文化の特質を「なにもないこと」と断言したように。(T)
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