アカマタ祭祀に苦悩の歴史を読む 新川明著『新南島風土記』
著者が1960年代に八重山諸島を取材し「沖縄タイムス」に連載した記事をまとめたのが本書だ。文面から現在の華やかな観光地の香りはない。「あとがき」で触れているように、新聞記者として八重山へ配属されることは当時、組合活動に対する報復であり「島流し」と受けとれた。それを島々の歴史や文化を掘り起こす機会に代えたのは、著者の非凡なところだろう。
島について語る際、伝統の祭祀や歌、伝説に力を注でいる。それらは、文字を残す術(すべ)を知らない庶民が暮らしの喜怒哀楽を次世代に遺す唯一の方法であり、しかも時代とともに変質し消えつつあるからだろう。中でも興味深いのが「アカマタ」「クロマタ」の祭祀だ。草木の葉を重ねて身を包み、朱や黒に染めた木彫りの面をつけた神々が出現し各家庭を回って豊作を授ける。西表島の古見から小浜島や石垣島宮良、新城島に伝わったといわれる。
祭事の内容を外部の者に漏らすことを禁じるなど、厳しい掟が集落の人々に課せられてきた。開放的な沖縄のイメージとは正反対である。数々の困難を乗り越え集落の結束を保つために、こうした祭祀が必要だったと著者が考えたのは自然だろう。干ばつや台風といった自然災害に加え、琉球王国が生きるのもやっとの重税を課し、マラリアがはびこる未開地への強制移住など理不尽な政策を強行する歴史が続いたのである。(T)