生活の隅々にまで及ぶ格差社会 石井洋二郎著「ブルデュー『ディスタンクシオン』講義」
日本でも格差社会化が指摘されるようになったが、注目されるのはあくまでも経済面にとどまる。しかし、本書で紹介されるフランス人社会科学者ブルデューの分析によれば、個人が蓄積する経済資本や文化資本、学歴資本に応じて、映画や絵画の好みから政治的・経済的な思想まで大きく左右され、慣習行動も色濃く影響を受ける。
経済資本と同様に、文化資本や学歴資本も個人の意思や才覚によって増えたり減ったりする可能性はあるものの、固定化され次の世代にそのまま受け継がれる傾向がある。親が持つ学歴や文化・教養の素養を超えられないケースが一般化する。新たな階級や階層が生まれ、社会で文化や思想を共有することが難しくなり分断が進む。ブルデューの分析はフランスを対象としていて、そのまま日本に当てはめられないものもあるかもしれない。しかし、格差社会を乗り越えるためには、自分たちが自然なうちに身につけたと思い込んでいる感覚や思想は、どこから来るか読み解く作業は欠かせないだろう。(T)