憑依された人々の苦悩と再生 谷川健一著『神に追われて』

 神といえば人に優しく慈悲深いイメージがあるが、本書に登場する神は人に憑りつき完全な服従を要求する。意に沿わない行動をとれば徹底的に苦しめるが、それが神に選ばれた人の宿命らしい。さまざまな試練の末、神のしもべとなることを誓い、人々の相談に乗って悩みの解消に奔走する。しかし、それは本人にとっては家族の不和を招き決して幸福とは言えない。

 本書の主な舞台となる宮古島では、こうした神に選ばれた人が現れることはそう珍しくない。しかも、ほぼ同じような道をたどり対処法もほぼ定まっている。多大な苦しみと不幸を抱えた民衆の魂が積み重なり、神様と死後の世界に向けてぽっかりと開いたこの島ゆえの何かを感じずにはいられない。合理的な説明や科学的な分析は不要だろう。(T)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です