伝統回帰に凋落日本の予感 岡本太郎著『日本再発見 芸術風土記』②
本書で太郎が繰り返し指摘したのは、「伝統」の名のもとに変革を拒む日本の風土だ。伝統そのものが悪いのではない。それに胡坐をかいて、時代の新しい血を取り入れることを拒むことが、伝統をつまらないものにする。常に民衆の新しい生命力を取り入れることによって、伝統は生き生きとした魅力を保つことができるという。こうした太郎の哲学は、少子高齢化が進む現代日本でこそ改めて読み直すべきだろう。
求めるのは、かつてのような経済成長の復活ではなく、普通の人々が活力や希望を持てる時代。しかし、近年、「すごいぞ日本」の自画自賛を重ね「伝統回帰」を目指す動きを頻繁に目にするにつけ、本書が出版された時代(1958年)よりも太郎の危惧が高まっているように思えてならない。伝統とそれにまつわる組織や人々によって、徹底的な議論は封殺されつつまる。議論は身近な人々に対してつぶやくことで終結してしまう。(T)