アイヌと琉球人の分岐点は 瀬川拓郎著『アイヌ学入門』
本書はアイヌの文化や歴史について解説しているが、その中で一番興味深いのは文化とは固定されたものでなく、周辺文化と交流するうちに絶えず変化することだ。例えば、アイヌといえばクマ祭りが有名だが、周辺地域との交易に伴ってイノシシ祭りから主役が交代したと本書は見る。
アイヌに限らず、古代社会から日本やその周辺地域では人やモノの移動がダイナミックに展開され、文化が互いに大きく影響し合う。遺伝子分析や考古学の成果によれば、縄文人からアイヌと琉球人が分岐し、そこへ大陸から渡ってきた弥生人が加わる。さらに、縄文人とも弥生人ともまったく系統の異なるオホーツク人が北海道に広がる一方、アイヌが東北地域に移り住んだ時期もあり、古代・中世にも多様で大規模な人の移動が日本列島で繰り広げられた。
縄文人とアイヌのつながりに触れる文章を読むうちに、思い出したのは岡本太郎だ。遺伝学や考古学の成果が一般的に語られる以前から、縄文文化に強く惹かれる。日本人の基層を見出そうとし、東北や沖縄への旅を重ねた。いずれにせよ、日本の伝統文化を固定してとらえることは、文化の奥行を失わせ薄っぺらなものにしかねない。(T)