代々の沖縄住民と移住組の間に横たわる溝 桐生夏生著『メタボラ』③

 主人公が沖縄の安宿「ゲストハウス」に流れ込んだ後、農連市場の建て替え問題に絡む。これは実在した問題だ。農連市場は東南アジアを彷彿とさせる雰囲気を醸し出し、観光客に人気のスポットだった。ところが、老朽化を理由に建て替え計画が進められる。本書の中では、この計画を阻止しようと、県外から移住してゲストハウスを営む釜田が政治の世界に打って出ようとする。しかし、沖縄に代々住む住民はこれに冷ややかな視線を送る。「古いモノを新しくして何が悪い」。農連市場だけでなく公設市場の建て替えなど多くの場面で似たような構図が浮かび上がる。観光客や移住組は沖縄にある古いモノに郷愁を覚え保護してほしいと思うが、本書中の釜田と異なり、沖縄の特別な歴史や伝統に気遣って声をあげられないのがほとんどだろう。  

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