名誉の戦死を語る恐ろしさ 長田紀春・具志八重編『閃光の中で ―沖縄陸軍病院の証言―』

 本書の中で特に注目したいのが、沖縄戦で戦況の悪化に伴い陸軍病院が南風原町からさらに本島南部へ撤退する局面である。1945年5月下旬、自力で歩けない患者に対して青酸カリを配布し「自決」を迫る(ミルクに溶かして服用させる)。当時、軍医見習士官だった長田紀春氏は次のように語る。

「陸軍病院が大量の青酸カリを前々から用意していたことは、軍医部等の上層部の命令で、最悪の場合をかねてから考慮してのことであろうが、やはり個々の患者の苦痛を少なくするというよりも、軍の体面や秘密の保持を考え、玉砕精神を励ますのが目的だったと言ってよいだろう」。南風原町の第一外科だけでも「歩ける患者を除くと約400名位の重傷患者がいたし、その患者が青酸カリによる自決に追い込まれたと思われる」と説明する。

重傷を負って治療中だった衛生兵は次のように証言する。「背の高い軍医中尉が来られて、『これから病院は南部へ移動することになったが、独歩患者のみしかつれて行けない。担送患者も護送患者もそのまま残ってもらわねばならなくなった。それでこの薬を飲んで名誉の戦死をした方がよいか、捕虜になった方がよいか、よく考えて自分で決めるように』と言われて、ミルクのようなものが入った湯呑みが配られました。湯吞みを投げ捨てる者もいましたが、重傷の人でどうしても無理だと思った人は飲んでいる様子でした」。

 現在、台湾有事を想定し南西諸島の防衛力強化が叫ばれるが、何を守るためか曖昧なまま自衛隊配備が進んでいるような気がしてならない。8月23日の投稿でも指摘したが、住民をいかに守るかについてほとんど真剣な議論が見られない。自衛隊配備を支持する人たちは「国を守るため」と叫ぶかもしれない。しかし、この場合の「国」とは本書で語られたのと変わらず、住民や国民ではなく国家や政府、軍の体面ではないか。常に冷静な問いかけが必要だろう。

  

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