絶望的な孤独とネット社会の闇 朝井リョウ著『正欲』

 多数派はイジメや嫌がらせに訴えながら少数派へ同調を迫る。近年、その陰惨さはますます深刻な気がしてならない。人権や多様性に対する意識は以前に比べ高くなっているはずである。本人は人権や多様性を尊重すると思い込んでいる分、少数派への敵意を無自覚であり質が悪いのだろう。そうした人権意識や多様性礼賛の薄っぺらさを告発しようとするのが本書だろう。

 本書のタイトルは多数派の性欲、正しい性欲を意味するようだ。登場する人物は少数派というより、かなり特殊な性欲を抱える。自覚すればするほど絶望の中に沈み込む。それでも、誰かに自分を分かってほしい、同じ心情を共有したいと願わずにはいられない。ネット社会の現代では同じ境遇の人を見つけやすいかもしれない。姿形の見えないネットの先に語り合える相手を探そうとするが、必ずしも善意の人物とは限らず悲劇が起きることになる。他者には絶対に理解できまいと諦める孤独な状況に読者は共感するのだろう。

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