圧倒的な暴力と無慈悲 梁石日著『血と骨(上・下)』①
最近は主人公が読者の共感を呼ぶ小説が多いように思えるが、本書の主人公は出だし部分を読む限り、それとは対極にある。しかも心理描写はほとんどない。ひたすら暴力的であり、自分の欲望のままに行動し爆発的に破壊の限りを尽くす。相手がどう思うか考えない。プライドは高く立ちはだかる者は強引に押しのける。身近なところにいたら絶対的に関わりたくない怪物である。しかし、少しばかり自己中心的な人物ならば単なる嫌な奴だが、これだけ圧倒的な存在となると不思議と魅力を持つ。ゴジラのような存在だろうか。1930年代、大阪で差別的な待遇を受ける朝鮮出身者の共同体が背景に描かれる。