宗教の向こうに荒廃した地方 高取正男著『宗教民俗学』①

本書の最初に登場する「幻想としての宗教」が興味深い。宗教は単に人間の頭の中にあるだけの幻想と断じるのではなく、近代以前の日本に関する記録から宗教が生まれる過程の仮説を裏付けようとしている。特に農村はたびたび飢饉に襲われ、助け合うはずの親戚友人や知人を見捨てたり食料を奪ったりしながら、当時は禁じられたはずの牛馬の肉はもちろん、人肉も口にせざるを得ない厳しい生存競争を迫られた。そうした体験を重ねて村人たちは深い原罪意識に苛まれ共同体の結束を強めたり、現生の共同体における生活に絶望して頭の中に架空の理想郷を築いて逃げ込んだりするうちに、地域色を帯びた宗教が日本各地に生まれた。隠れキリシタンをはじめ普遍的な宗教を共同体の歴史に沿って独自の形に変えながら長年保ち続けた原動力を、農村の原罪意識や現実逃避にあったと著者は指摘する。