安全保障をめぐる沖縄の構図に通じる?
上原善広著『日本の路地を旅する』②

被差別部落を意味する「路地」をタイトルに入れるものの、差別に関する生々しい描写はあまり登場しない。路地の成り立ちをあぶり出しながら、歴史の表舞台としては語られない日本の社会の根っこに光を当てようとする。第二章「最北の路地―青森、秋田」では皮革業、第三章「地霊―東京、滋賀」では屠畜業などに焦点を合わせる。皮革業のおかげで和太鼓をはじめ伝統文化に欠かせない用具が製作され、屠畜業によって食卓を豊かにする動物性たんぱく質を我々は口にできる。
本書で興味深いのは今日ブランド牛として知られる「近江牛」の歴史を紹介している点だ。それによれば、明治時代に入るまで日本人はほとんど肉食がなかったといわれるが、江戸幕府で代々大老職を輩出した彦根藩は堂々と「養生薬」として牛肉の味噌漬けを製造し将軍家や大名たちに贈呈していた。つまり、上級武士たちは肉のうまさを知りながらも、動物の死体を扱うことを嫌い社会の最下層に作業を押し付けたのである。武具にも使用される革製品についても同じだ。
明治時代に入って表面的には身分制度がなくなっても、必要だけれど自分の手を汚したくない作業は最下層の人々に任せ差別する構図は基本的には変わらない。ここまでくると、安全保障の上で欠かせないとしながらも自分の近くには置きたくないから、沖縄に押し付けておきたい米軍基地と似た構図にあることに気づく。

