何もないことの感動 「沖縄文化論」
『岡本太郎の宇宙4 日本の最深部へ』より⑫

太郎は沖縄の芸能や生活習慣について多くを語りながらも、「何もない」と言い放つ。奇をてらったわけではないことはすぐに分かる。何もないとは、見るべきものが何もない、ではない。
彼は著作の中で、権威主義や官僚主義が生み出す装飾や形式、建築物、制度を嫌悪し「不潔」と呼ぶ。そうしたものがそぎ落とされたところに沖縄文化の核を見出そうとする。視線は生活から自然に生まれる沖縄の人々の表情や身のこなし、日用品に注がれる。
最も強く彼が心動かされる場面は久高島の御嶽との遭遇だ。林の中に石ころが数個ころがる場所にすぎないが、ここに神と人間の初源的な交流の姿を見る。一切の虚飾がない清浄さに満ちていて、この清浄さを求める心こそ日本人の精神文化の基底という結論に太郎はたどりつく。

