憲法改正と対米依存のねじれ
民放のニュース番組で総裁選候補者の討論会が開かれ、候補者が互いに質問し合う場面があったが、菅義偉官房長官は石破茂元幹事長へ米軍普天間基地の辺野古移設について質問した。石破元幹事長が以前、移設工事の再検証を求める発言をしたからだろう。他候補への質問の機会は1度だけ。菅長官が移設工事に焦点を当てたのは、石破元幹事長の弱点になりうると考えただけでなく、この事業を重視し自分は揺るぎなく完遂するという意志の表れといえよう。
一時期、菅長官は移設工事について「粛々と進める」と発言し、2015年に初めて会談した際、故翁長雄志前知事から「移設を粛々と進めるという発言は問答無用という姿勢か感じられ、上から目線の言葉を使えば使うほど県民の心は離れ、怒りは増幅する」と指摘されると、菅長官は「粛々と」の使用を控えるが、「粛々と」は単に言葉のあやではなく、「問答無用」で移設工事を進めようとていることを改めて確信する。
日米同盟の「深化」「強化」を掲げる安倍政権としては、米国に約束した普天間基地の移設は避けて通れない道と決め込む。一方、「日本人の誇り」を取り戻すことも繰り返し強調してきた。米国から与えられた憲法も、その成立経緯ゆえに変える必要があるとして「自主憲法」の制定も至上命題に掲げてきた。これはある意味、矛盾する二つの政策を推し進めることになる。米国への依存を深めながら米国からの自立を果たそうとする。米国との関係ではブレーキとアクセルを同時に踏む状況が続きながらも、日本人は大きな違和感なく安倍政治を受け入れてきた。
加藤典洋著『戦後入門』はこうした状況を見過ごさず、安倍政治をはじめとする日本の政治思想・哲学の源流を探ろうとした。それは、戦後日本の経済・政治状況から国際政治における大国間の駆け引きまで、絡まりねじれた歴史の糸を根気よく一本いっぽんたどり、ほぐし戦後の出発点まで丁寧にたどる作業でもある。600ページを超える大作だが、著者の簡明な語り口と、事実を解明しようとする真摯な姿勢のおかげでページ数の多さを感じさせない。(T)