村上作品の治癒力を語る 『こころの声を聴く 河合隼雄対話集』

 タイトルにあるとおり、心理学者の河合氏が作家、俳優、科学者など各分野の著名人と語り合った詳細が記されている。テーマは老い、宗教、性など多岐に及ぶが、個人的に一番興味を持ったのは小説家・村上春樹氏との対談である。村上氏が自身の小説について語っている。

 彼の小説は学生時代によく読んでいたが、他の作家の作品とはかなり違うという印象がある。たいてい小説といえば、物語展開の向こうに著者の現実への批判や主張を感じるが、村上氏の作品にはそういうものが直接的には感じられない。現実とは微妙にずれている荒唐無稽な物語という気がしないではない。しかし、読み手をひきつけてやまない魅力がある。

 村上氏本人は自身の作品について、意識を掘り下げ、深いところにある物語を掘り起こそうとしたと語る。河合氏は心理学者の立場から、読者が深層意識の物語に触れることによって癒され救われると分析する。別の著書で河合氏は現代人が物語を求める理由として「現代のあまりにも一面化した意識を補償し、全体性を回復しようとする人間の無意識的な希求の顕現」を挙げている。(T)

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