自分史上最も複雑な読後感 佐藤正午著『月の満ち欠け』
好きな作家の作品や評判が気になる作品を選んで購入することが多いが、読書の幅を広げようと、書店の店頭で何の予備知識がなくその場の思い付きで選ぶこともある。本書はこのパターンだ。何とも奇妙なストーリである。成人の女性が亡くなった後、少女に生まれ変わる。その少女が成長した後、再び別の少女に生まれ変わる。
本書を読み終えてから知ったが、映画化されるそうだ。予告編の公式サイトには「感涙のベストセラー」「数奇で壮大なラブストーリ」という表現が散りばめられているが、素直にうなずけない。最初に思いを寄せた男性とは、生まれ変わるたびに年齢が離れ、通常では恋愛関係は成り立たない。生まれ変わって受け継がれる女性の思いも出口が見えない。しかも、生まれ変わった少女の親や周囲の者たちは戸惑いや受け止められない現実に翻弄され続ける。喜劇的やSF的な調子はなく、至ってシリアスな調子がひたすら続くだけに、「感涙」「ラブストーリ」に違和感が残る。自分が小説を読む時、「救い」を求めてしまう傾向があるのかもしれないとも思う。割り切れない感覚が小説といえば小説なのだろうが、自分史上最も複雑な読後感が尾を引いた。(T)