季語に映る沖縄の暮らし 小熊一人著『沖縄俳句歳時記』
地域特有の季語があることを知ったのは、本書および比嘉朝進著『沖縄の歳時記』である。沖縄に移り住むまでは聞いたことのない風物が、季語として読み込まれているが、中でも興味深いのが風の名前である。今の季節ならば、梅雨明けの夏至のころに吹く南南西の風を「夏至南風(カーチペイ)」と呼び、南方から豊穣をもたらすと考えられた。梅雨の時期に雨雲を伴った南風は「黒南風」、梅雨明けのそよ風は「白南風」である。無色透明のはずの風に色をつけるとは、同じ南風でもまったくイメージが異なるようだ。沖縄には数十の風の名前があるといわれる。自然の変化と隔絶した生活を送る我々現代人とは異なり、こうした風の名前を普通に生活の中で使った時代の人々は、風の変化を敏感に察知し、船の運航や農作業に生かしたのだろう。(T)