もう明るい未来は描けないか 川上弘美著 『大きな鳥にさらわれないよう』

 本書をあえて分類するとなれば、人類の未来を描いた小説になろう。だが、そう聞いて通常思い浮かべるような壮大な物語はなく、スケール感もなければ、胸躍るような希望もなければ、手に汗握るような戦いもない。各場面とも独特な設定の舞台であるものの、その設定の中では何気ない個人の独白や日常的なやりとりが中心であり、あえて細部を描かない描写のせいもあって、場所や時間の特定を感じさせず、人類の未来のようであるものの、どこかおとぎ話のような雰囲気も漂う。強い絶望感はないものの、ゆっくりと退化と衰退を続ける人間の悲しみが際立つ。現代人が抱く漠とした不安と孤独を反映させているのだろう。(T)

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