人間がまだ人間だった頃の沖縄物語 平良孝七展
沖縄県立美術館で開催されている「平良孝七展」を訪れた。平良孝七は大宜味村生まれの写真家。同展では沖縄の本土復帰前後から、亡くなる1990年代まで撮影した作品を時代やテーマごとにまとめられている。彼の作品をながめて改めて思うのは、人間は胸のうちにうごめく感情を丸出しにするものということだ。誰しもが貧しく、やるせなく、うれしいから隠す必要がなかった。
軍隊の論理を振りかざし横暴を極める米軍に対して叫び声を上げ続けるデモ隊、自然の巨大な力の前になすすべもなく佇む小さな離島の人々、日々の暮らしの忙しさと貧しさに追い立てられながらも明日を夢見る子供たちなど、当時は日常の表情を抱えた人々が登場する。諦め、絶望、怒り、悲しみ、喜び、不安。言葉にしなくても、はっきりとした表情にならなくても滲み出ていた。
しかし、私たちの時代は、社会全体が大きく変わり、豊かさと貧しさが混在し、喜びと悲しみが入り組み、心の内を明らかにすることに引け目を感じるようになった。社会全体が効率と合理性を求め、感情のゆらぎや浮き沈みは余計なものとなった。権力者たちが基地や貧困を公衆の面前から徐々に隠していく。私たちも自分の感情をむき出しにすることは他人を不快にさせることとして控える。平穏無事で豊かな家族の風景という物語を演じるようになった。どんどん人間本来の姿から遠ざかっていく。(T)