同郷者がつくる市場の賑わい 石井宏典著『都市で故郷を編む』
那覇市の国際通りに面したアーケード街は迷路のように細い路地が入り組み、昭和レトロの雰囲気が漂う。食料品店、土産物店、飲食店、衣料品・アクセサリー店などが並び観光客で賑わうが、だんだん奥に進むと雰囲気は変わる。シャッターが閉まったままの店が目立ち、開いていても華やかな飾りつけはなく簡素で地味な内装がほとんどだ。置いてある商品も、観光客向けというより地元の人が普段使うようなものばかり。そんな商店街の一角が、衣料品を主に扱う新天地市場と呼ばれる。
本書で注目したのは、当事者たちの証言をもとに最盛期の新天地市場を再現しようとした点だ。市場界隈では同じ業種に同郷者が多いという話を聞いたことがあるが、新天地では本部半島および伊江町出身者が6割を占めた(1967年時点)という。伊江島は本島北部における最大の激戦地であり、戦後は伊江島や本部半島に米軍飛行場などが建設されたことが影響したとみられる。戦争で夫を失ったり米軍施設によって土地を失ったりした女性は、故郷では生活手段を見つけることが難しい。先に生活基盤を築いた親類や友人、知人を頼って、商業の中心地である那覇に向かうことになる。
結果として、同郷出身者が市場の同じ区域に増えることになる。特に、衣料品関係はミシンさえあれば仕事を始められ、女性が入りやすい業種だっただろう。特殊な技術や知識は必要なく、生鮮食品のように短期間で売り切らないと廃棄処分を迫られることもない。同郷者を同じ業種に誘うことは、競合相手を増やすことになりなねないが、本書のインタビューを見る限りはそういう考えは市場にほとんどなかったようだ。同郷者が増えることは心強く、話題を共有できる者が増える。実際、育児や出産、病気など困った時には、助け合える仲間となっている。(T)