感情を極力抑えた筆致に感じる別世界 サン=テグジュペリ『夜間飛行』
沖縄に関連した書籍やイマドキの流行り本を手にとることが多いが、たまに毛色の違う本にも当たってみたくなる時がある。なんとなく本屋で見つけて手にとったのが本書である。著者には「星の王子様」のイメージがあった。
ロマンティックなタイトルではあるが、中身は近年の本とはまったく異なり、主人公は非情な支配人である。現在では当たり前になった夜間飛行の黎明期に、周囲の反対を押し切り、未知の分野に挑む男たちの物語である。現代のドラマならばNHKの「プロジェクトX」のように、感情を揺さぶるような描写や音楽がじゃんじゃん流れるが、人間の老い、生き死、絶望といった場面ですら淡々とした語り口が続くだけ。飛行機の爆音をはじめ騒々しいはずの場面も静かな時間しか感じられない。あえて感情を極力抑えた筆致だが、日本の小説にはほとんど見られない展開。登場人物たちは神が導く道をそのまま辿っているという意識だろうか。(T)