現代人が抱える苦悩と向き合う 及川祥平・川松あかり・辻本侑生編『生きづらさの民俗学』①
民俗学といえば芸能や慣習など伝統文化の継承を思い浮かべ、現代人の抱える「生きづらさ」を扱うとは意外に思えた。しかし、「生きづらさ」の根幹をたどっていけば伝統にたどりつく。伝統はいつも守るべき美しいものとは限らない。たとえば「石の上にも三年」に象徴される「辛抱の美学」も場合によっては「生きづらさ」につながる。入りたての社員は上司や先輩社員に対して異議を唱えられず、1年や2年で退社すれば「辛抱が足りない」と後ろ指をさされる。本人も「自分は適応できない人間」と負い目を感じるかもしれない。確かに辛抱が社会人としての成長を促す場合があるかもしれないが、一方でセクハラやパワハラの温床になっているのも事実だろう。新入社員と上司や先輩社員のどちらが正しいか一般論で語れないが、「辛抱の美学」が生きづらさの声をあげにくくする面は否定できない。(T)