喪失や衰退をどう受け入れるか ダニエル・キイス著・小尾芙佐訳『アルジャーノンに花束を』②

 本書は、知的障害を持つ主人公が手術を経て急激に知能を獲得し喪失していく物語だ。これは知的障害者に限らず誰しも経験する過程だろう。幼児から青年にかけて知識や知能を獲得し、老いるに従ってそれらを失う。これがきわめて短い期間のうちに起きることによって本人や周囲の人々は戸惑い苦しめられることになる。

 物語が現代日本に対して示唆するところは多い。1つには、現代では知識や知能、技術の重要性がますます強調される一方、それに伴って思いやりや愛情が見過ごされ、人間関係は殺伐としてものになりがちな点。また、高齢化や少子化が進み、社会全体としても喪失や衰退の時代を迎える点でも重なる部分がみられる。政府はこの時代の進行にいかにブレーキをかけ逆回転させようとしている。しかし、おそらく多くの人々がかなり難しい作業と感じ始めている。喪失や衰退をいかに受け入れるか、社会や個人が心理面でも制度面でも準備が必要になってくるのかもしれない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です