女性が醸し出す謎の呪力 「オシラの魂――東北文化論」
『岡本太郎の宇宙4 日本の最深部へ』より①

あの世から愛しい人の呼び寄せるイタコ、女性や馬の顔をかたどった木の棒に何枚もの布を被せたオシラサマ、色とりどりの帽子や服、靴下などをまとった無数の地蔵、そしてここに押し寄せるおばあさんたちの波。東北の民間信仰をテーマに旅をするが、文化人きどりの評論家ならば、いかがわしさに眉をひそめる場面ばかりを太郎は求め目を見張る。虐げられ耐えながらも世間からほとんど顧みられることのない女性たちの魂をひしひしと感じるからだ。見た目の美しさや洗練さには興味がない。
太郎は沖縄でも魂の共鳴を求めて旅をしたが、ここでも女性が信仰の中心を担う。偶然ではないだろう。女性が身を粉にして働き家を支えるだけでなく、共同体の宗教行事をつかさどり歴史を紡ぐ。この光景にこそ日本人精神の源流の匂いをかぎとる。縄文的な世界だ。今でこそ遺伝子調査によって東北と沖縄で縄文度の高さが共通することが知られているが、太郎はそうした分析が世に出回る前に見抜いていたとしか思えない。