自由・解放の幻想に縛られた戦後 「花田植 農事のエロティシズム」
『岡本太郎の宇宙4 日本の最深部へ』より③

計算と安定を求める農耕社会に居心地の悪さを覚えつつも、岡本太郎は稲作文化を無視しては日本人精神の実態には迫れないとして伝統的な田植え行事を訪れる。「花田植」と呼ばれ、実質的な農作業の田植えというよりお祭りであり、参加者たちは声を張り上げて歌い、太鼓の拍子に従って動き回り踊る。
そこで太郎が注目したのは陰に陽に見え隠れするエロティシズムである。そもそも田植え行事そのものが女性の品評会的な役割を担い、その中ではセックスを暗示するような体の動かし方が織り込まれる。現在では「教育上よくない」という名目で削除されたが、露骨に性的な表現が入った田植え唄が歌われた。行事の後には夜這いが横行したといわれる。
あらゆる面で戦後、私たちは解放され自由になった。それとは対照的に戦前、日本の中心だった農村社会は、性という面でも閉鎖的で自由がなかったと信じてきたが、農耕儀礼をめぐる農村の人々の奔放さに注目すると、この固定観念を捨てる必要性に迫られる。むしろ戦後社会の私たちは道徳や倫理を振り回し自由な発想を抑え込んできたことを痛感する。