神秘の重みを肌感覚で捉える祭り 「火、水、海賊――熊野文化論」
『岡本太郎の宇宙4 日本の最深部へ』より④

今でこそ熊野古道などで関心を集めるが、岡本太郎は早くから日本の神秘を象徴する存在として注目しこの地に乗り込む。奈良・平安朝の中央文化が花開いた地域に近い場所にありながら、深い山並みや森、海近くまで迫る崖に閉ざされ、長い間秘境の地とされてきた。奈良・京都という日本文化の「明」の部分が輝けば輝くほど、「暗」としての熊野は闇を一層深め人を惹きつける。
受け継がれる祭りには、ご神体の滝に炎が挑む形をとるが、火と水という世界の根源をなすファクターを読み取りながらも、「海賊」という要素も見い出す。刻々と変化し非情な力で人間に襲い掛かる海を相手にしながら、中央の権力には縛られない柔軟さが海の男たちにはある。抽象的な思考よりは生活感覚や肌感覚で世界を捉えてきた日本人の原始信仰が投影されていると彼は分析する。