呪術で交錯する密教と芸術 「秘密荘厳」
『岡本太郎の宇宙4 日本の最深部へ』より⑤

著者は旅を重ねるうちに「日本の最深部」への手応えを深める。東北文化論では、呪術が現れなければ本物の芸術ではないと語った。呪術を秘めた密教の本質を掴むことによって、日本人の心を深いところで揺さぶるものを見極めようとする。
高野山で仏教芸術に触れ高僧と対談する。高僧には自分の宗教観をぶつける。「本当の宗教は人を救うよりも人を苦しめるべき」「生きるということは、苦しむっていうことだけが本質」「苦悩をへなければ生き甲斐は現出しない」「仏の立場からすれば、そこから解き放つんではなく、むしろ苦悩をつきつけ、あたえなきゃいけない」。
しかし、高僧はやわらかく微笑んだまま。美術館の美術品のように収蔵された仏像や密教絵画を眺めても退屈を覚えるばかりだった。むしろ、ふと目をやった高野の自然に永遠と神秘の美を感じる。