無知と無関心が生む差別の病魔 上原善広著『日本の路地を旅する』③

 淡々と各地の路地(被差別部落)の歴史を掘り起こすが、本書は後半に入ると微妙に流れが変わる。路地出身者が現在を生きる姿や引き起こした事件に重点が置かれる。

 路地ゆえの差別は現在では薄まりつつあり、道を踏み外しても路地出身であることが明らかに原因とは言えない者たちを登場させる。出自や与えられた環境について同情すべき事情があるとしても、どんな人生を歩むかは最終的には本人の選択と決断に求めるしかないという考えが、著者自身の脳裏にも浮かぶ。しかし、一方で「自己責任論」を全面的に受け入れることもできない。刑務所生活を送り多額の借金をかかえ沖縄へ逃避した兄のことを思うと、自業自得と切り捨てられない。

 あからさまな差別は大きく減っているものの、無知と無関心が人の暮らしや心を傷つけているのは事実。あからさまでなくなっている分、傷を受けた人々は痛みの声をあげにくい。痛みの声をあげれば、逆に「被害妄想じゃないか」と非難されかねない。「今の時代に差別なんてない」という声に抗って、声をあげられない人々のかすかなつぶやきを拾おうと著者は路地を歩く。沖縄においても、米軍基地が集中するのは「沖縄差別ではないか」と叫んでも本土にはなかなか届かないことを考慮すれば、「差別」の質は違っても無知と無関心の壁を乗り越えることは容易でないことが想像できよう。

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