止まらない混乱とおびただしい死 『チェルノブイリの祈り ――未来の物語』④

(スベトラーナ・アレクシェービッチ著 松本妙子訳)

 本書ではさまざまな証言が取り込まれている。チェルノブイリ原発の事故処理に32万人が投入された。核爆発を防ぐために水中に潜って原発の排水弁を開けたり、燃え盛る原発に向けて地上300メートル上空からヘリで砂袋を落としたり、原発の燃料、コンクリートや鉄骨の破片をかき集めたりする作業に生身の人間が従事し、その多くが命を失う。決死隊と呼べる。志願者には多額の報酬が約束されたが、彼らは報酬が目的ではなく祖国愛に燃える者だったと証言する者がいる。

 逆に、騙されて事故現場に送り込まれたと告白し、事故現場周辺でつくられた農作物や畜産物が産地を隠して流通したと指摘する者がいる。放射能汚染の意味が分からず原発周辺に住み続けたり、放射線量の高さを知らされず事故処理作業に当ったりする者もいる。チェルノブイリ出身者というだけで避難先では恐れられ、事故処理担当者や周辺居住者と子供をつくることを避ける女性たちがいる。1993年にはベラルーシだけでも20万人の女性が中絶したが、その主な理由はチェルノブイリだったというデータを示す者もいる。

 たびたび戦争と原発事故を比べる声が登場する。どちらも多くの死者を出すことは共通する。しかし、戦争は誰が何をしたかが見えるが、原発事故は何が起きているか分かりにくい。専門家でも意見が異なる。自由な発言や情報の公開が許されないソ連統治下であり、権力者たちの隠蔽や裏切り、横領、横暴も加わる。庶民は断片的な知識や情報を組み合わせ混乱するしかない。

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