ウクライナ侵攻、我が国へ続く道か 『チェルノブイリの祈り ――未来の物語』⑤
(スベトラーナ・アレクシェービッチ著 松本妙子訳)

チェルノブイリ原発事故の被害を拡大させたのは、政治の隠蔽主義であり、権力者たちの責任回避であり、官僚体制の自己保身だ。さらに、名もなき民衆や軍人たちの偉大な祖国幻想、政治が押し付けてきた無知や迷信、貧困がもたらす精神的な混乱が、原発事故を加速度的に大きくして国の運営者たちですら止められない規模に膨らませた。
これは本書を読むうちに湧き出る思いであり、現在も続くウクライナ侵攻が頭をよぎらずにはいられない。ウクライナ侵攻は最終的には、プーチン大統領が開始ボタンを押したとしても、チェルノブイリの原発事故以来続くロシアの風土や政治体制が深くかかわることは容易に想像がつく。では、ロシア以外の世界は無関係といえるのか。むしろ、世界全体がチェルノブイリ事故の時代よりもロシアに近づきつつあるのではないかという危惧がある。
トランプ大統領の米国に象徴されるように、交渉や討論で積み上げ築いた秩序やルールではなく1人の政治家の思い付きに世界が振り回される。国民はそうした政治家にブレーキをかけるのではなく支持・応援し強大な権力を与える。SNSの濁流は淀んだ現状の変革を異色のヒーローに期待し後押しする。この潮流は日本でも例外ではないだろう。
