恋愛にもコスパは必要か 川上未映子著『すべて真夜中の恋人たち』

 「私」は30代を迎えたフリーランスの女性校閲記者。極度の引っ込み思案で、何年住んでいても都会の雑沓や人込みに慣れない。その彼女がたまたま出会った三束さんと初めての恋に落ちる。三束さんはパッと見たところ冴えない50代の男性だが、無限と思えるほどの包容力があり周りにはいつも優しい光が満ちている。頭の中は彼のことでいっぱいになる。

 彼も「私」のことを悪くは思ってなさそうで、定期的に会うようになる。となれば、愛を告白しすぐに結ばれるのかといえば、「私」はあれこれ思案してためらい悩む。急接近したかと思えば距離を置く。「何をぐずぐずしているのか」。読者はもどかしさを感じながらも、一方で共感も覚える。「私」は三束さんと会う時間がこううえなく大切だ。彼がどんな表情でどんな言葉をかけてくれて、まわりにはどんな風景が広がっていたか。二人でいる瞬間、瞬間が心に深く刻み付けれる。二人の関係がどうなるかは彼女の頭にない。今を生きることはそういうことではないか。

 私たちは四六時中、世の中の「常識」に追い立てられる。一定のペースで決断し行動することを迫られる。仕方ないと思いながらも煩わしさも感じる。恋愛くらい自分のペースでいいじゃないかと思いながらも、始まって10分で映画や小説の結末を見たがるようにすぐに「好き」か「好きでない」かの結論を求める。そんなコスパ・タイパ優先の恋愛とは何なのか改めて考える。

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