同調圧力とコロナ対策

 欧米のように法的に外出を禁止することなく、行政からの「自粛要請」だけで国民が外出を控えていることを、国会議員らが称賛しているらしい。確かに、民主国家では、市民は自らの良識と責任のもとに行動するべきとされるが、日本人は必ずしもこの理想に沿っているとばかりいえないだろう。

 2016年芥川賞受賞の村田沙耶香『コンビニ人間』では、主人公は結婚や就職で強烈な同調圧力を受けるとともに、同じ職場で話し方が似通ることに気づく。知らず知らずのうちに、他人の話し方を取り入れる現象は一般的かもしれない。自分がよく使うスーパーで店員の話し方を注意して聞くと、語尾の上げ方など共通するイントネーションがみられる。これに限らず他人に合わせようとする習性は日本人に広く染み付いている。

 2019年直木賞受賞の川越宗一『熱源』は、領土争いを繰り広げるロシアと日本の間で、差別と偏見に苦しみながらも、たくましく生きる樺太アイヌの姿を描く。小説の舞台は明治時代から太平洋戦争までだが、自分たちの正しさを疑わない「文明国」の同調圧力は今も昔も変わらない。さらに現在のコロナ対策とのかかわりで気になったのは、アイヌ集落が天然痘の感染によって存亡の危機に陥る場面だ。都市化は富や知識の集積を招き人類発展の原動力になる一方、感染症という面では計り知れないリスクを抱え込む。

 世界史をみても、感染症は先住民の人口を大きく減らす要因になってきた。先住民は一部の民族を除けば、もともと外部との接触を持たず、大きな集落を形作らなかった。だから、感染症が入ることはめったになく、あったとしても小さな集落内だけでとどまり、それ以上に広がらなかった。ところが、欧米人ら現代人と接触するようになると、一挙にリスクが高まる。「文明化」を名目に都市へ移住した後、感染症が広まると、免疫も知識もない先住民は絶滅の淵に追い込まれた。(T)

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