繰り返される琉球処分①

 大城立裕著『小説 琉球処分』を読んでいると、普天間基地の辺野古移設をめぐる中央政府と沖縄県の駆け引きを思い出す。実際、ある場面が「平成の琉球処分」と呼ばれることもあった。2013年11月、沖縄出身・選出の自民党国会議員5人は県外移設の公約を掲げていたが、党中央の圧力に抗しきれず「辺野古容認」を受け入れ記者会見に臨んだ場面。淡々と説明をこなす石破茂幹事長(当時)の横で、うなだれているように見える議員もいれば、中空をじっとにらんでいるように見える議員もいた。

 中央政府の都合や意向が、脅しや懐柔策を使って沖縄に押し付けられる構図は変わらないというわけである。140年ほど前の琉球処分では、琉球王国を解体し沖縄県を創設することは沖縄のためになると中央政府は説明したが、沖縄県の設置まもない時期に、琉球諸島を二分割し宮古・八重山諸島を割譲する代わりに、中国国内で日本が欧米並みの商業活動ができる権利を得るという案を中国(清)に対して提示している。

 日本の権益拡大のためならば、沖縄を売り渡すことも厭わない姿勢が分かる。現在、沖縄にとって大きな懸案になっている、普天間基地の辺野古移設も、「沖縄の基地負担軽減」が旗印になっているが、県内で基地をたらい回しにして負担軽減といってもどれだけの説得力を持つだろうか。アメとムチを繰り出して中央政府の都合を押し付ける姿は140年前の琉球処分と重なっても不思議はない。

 『小説 琉球処分』の「あとがき」や「解説」によれば、この小説は1959年から1960年にかけて琉球新報で連載され、1968年に講談社から単行本化、1995年にケイブンシャ文庫になったものの、いずれも初版どまりであり、国民一般から注目されることはなかった。それが変わったのは、民主党政権の菅直人首相(当時)が、記者会見で「『琉球処分』という本を読んで、沖縄への理解を深めていこうと思っている」と発言、『小説 琉球処分』に注目が集まり、2010年講談社が文庫本化を決めたらしい。最近は普天間基地の移設問題に対する世論の関心はだいぶ薄れたように思えるが、同書の奥付をみると「2020年12月2日 第13刷発行」とあり、現在も読み継がれていることがうかがわれる。菅直人元首相の数少ない功績かもしれない。(T)

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