浄化される日本の行方 柳美里著『JR上野駅公園口』

 本書は、長年、出稼ぎとして働いた後、ホームレス生活に転落した福島県出身の男性が、どのように昭和・平成の時代を生きてきたかが描かれる。彼のようなホームレスが多く集まる場所が表題になっている。本書を読みながら、ホームレスや出稼ぎが近年あまり話題に上がらなくなったと思った。日本社会の雰囲気が大きく変わったせいだろう。

 「自己責任論」が広くはびこるようになり、困窮する人たちに向かって「身から出た錆」と厳しい視線を投げかける人が多くなったかもしれない。東日本大震災をはじめとした大規模な自然災害が相次ぐ上、コロナ禍による経済の大減速が降りかかり精神的に余裕のある人も少なくなっているだろう。そして。本書で触れているように、景観の「浄化」の名のもとにホームレスの人々を、目につくところから排除する動きが進んでいるようだ。景観ばかりでなく歴史でも「浄化」の目論見が見え隠れする。安倍前首相が提唱した「美しい日本」を目指したいのだろう。沖縄に関連していえば、日本軍による住民虐殺などが歴史教科書から削除されるように、「美しい日本」にそぐわない歴史的な事実も排除されていく。(T)

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