損得抜きの情熱に生きる 『眉屋私記』読書日記③

 ようやく読み終える。6月26日投稿の読書日記②でも書いたとおり、読み進めれば読み進めるほど、幼い時に辻に売られたツルが存在感を増す。ツルの生きざまには現代人が失った感情が溢れる。金銭に換算して損か得かとは無関係に、沖縄社会の伝統と仕来りに根づく絆(きずな)や柵(しがらみ)に向き合いながらも、人としての心意気に従って立ち回る。血がつながらなくても、縁を感じた子供たちに対しては、我が子と変わらぬ愛情を注ぎ育んだ。損得勘定を抜きにした情熱は、筆者の上野英信氏からもひしひしと伝わる。眉屋一族が生きた軌跡をたどろうと、取材は、沖縄県内にとどまらず東京、アメリカやメキシコまで長期に及ぶ。費用と労力を考えれば、並の文筆家は腰がひけるだろう。移民や貧困という沖縄近代史の重要テーマを残そうとする同氏の情熱なしには実現しなかったはずだ。(T)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です