内向き議論からの脱却は可能か 比屋根照夫著『アジアへの架橋』

 琉球処分によって日本に編入され同化を強いられた沖縄では、同様に植民地政策や同化政策に苦しむアジア諸国をどのようにとらえ、これらの国々といかに連帯すべきか理論化する試みが繰り返されてきた。その歴史をたどるとともに、著者自身もインドネシアで教鞭をとり同国の文化人や学生らと交流を重ねた歩みを記したのが本書である。掲載原稿が最初に発表された1980年代から1990年代にかけては、日本社会全体でもアジアの人々とどう連帯すべきかが大きな議論になっていたと思う。

 しかし、近年、アジアとの連帯や協力を唱える声はほとんど聞かれない。経済的に成長するアジア諸国を、「経済大国」日本を脅かす存在ととらえる向きも強い。中国や北朝鮮に対してははっきりと脅威論が支配的であり、韓国に対しては歴史認識の問題も絡み関係改善の見通しが立たない。さらにここ1年余り、新型コロナの感染拡大によって、アジア諸国を含め外国からの入国者に対しては感染源になりかねないという否定的な見方が蔓延している。「日本人がどうなるか」という内向きの視線ばかりが目立ち、外国の人々への思いやりを持った視線が話題にあがることはまれである。(T)

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