先島分島案は近現代日本の原形か 山下重一著『琉球・沖縄史研究序説』

 琉球王国時代末期、欧米諸国との接触に始まり、王国内や薩摩藩内の勢力争いが絡んだ牧志・恩河事件、王国が日本に併合される琉球処分、民衆が旧体制に挑んだ宮古島人頭税廃止請願運動まで、本書は近現代の沖縄が形成される重要局面に光を当てている。中でも興味を引かれるのは、琉球処分からまもない時期に、中国国内で通商上の利権を得ることと引き換えに、先島(宮古・八重山諸島)を中国に譲り渡す条約交渉を明治政府が進めていた点である。

 著者は第2部第2章「改約分島交渉と井上毅」の結語で、「井上毅が(中略)実質的に中心になって準備した改約分島交渉に臨ませた経緯は、彼が冷静で合理的な官僚であったと同時に、一旦決断された政策の遂行については、強引な権力的行動も辞さない峻厳かつ巧妙な政治力の持主であったことを示している」「改約分島交渉は、民族統一を謳った琉球処分の直後に断交されようとした民族分断の政策に基づく」としている。

 こうした中央政府の政策は偶然生まれたとは言えまい。太平洋戦争末期、敗色が濃いにもかかわらず、終戦交渉の駆け引きや、本土決戦の時間稼ぎを念頭に、20万人の犠牲者を生んだ沖縄戦へ突入。また、サンフランシスコ講和条約では、本土の独立と引き換えに沖縄を米国の手に委ねた。「国益」の名のもとに沖縄が犠牲を強いられる構図はその後も続く。(T)

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