沖縄小説の果敢な試み 真藤順丈『宝島』

 2019年に発表された直木賞の受賞作であり、沖縄を真正面から取り上げた作品として県内でもかなり話題になった。小説は米軍物資を奪い取る終戦直後の戦果アギヤー(戦果あげ)に始まり、沖縄の本土復帰で結末を迎える。この米軍統治下時代を描こうとすれば政治的な主張が全面に出やすいが、戦果アギヤーを共にした3人の結びつきを軸にして、随所にスリリングなシンーンが織り込まることもあって、文庫版の上下巻で700頁に及ぶ大作ながら自然に読み進められた。同じ時代を扱った大城立裕著『まぼろしの祖国』が、多様な人間模様を淡々と描いたのとは対照的である。

 ただ、米軍統治下時代を小説として取り上げようとすれば、この時代への評価がさまざまであるように小説も多様な視点から批評される。沖縄戦や米軍統治の重い事実をまったく無視しては、小説といっても成り立たない。かといってただ事実をなぞるだけでは小説としての面白さは生まれない。比較的事実に沿ったように思える県出身の大城氏の作品でも厳しい批評を受けたと聞く。県外出身者でエンターテインメント性を追求しようとした『宝島』の作者は、さらにプレッシャーを感じただろう。実際、まったく書けない時期がしばらく続いたという。同作品は直木賞を受賞するまでは、候補作品の中では一番売れていなかったらしい。個人的には、政治的な主張から離れ、多様な沖縄像を描き出す試みが増え、活発に語られることを願う。(T)

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