歴史を消し去る波に抗う  佐野眞一著『僕の島は戦争だった』

 佐野氏が著作に付けるタイトルには独特の香りが漂う。本書のサブタイトルは「封印された沖縄戦の記憶」であり、沖縄戦後史について以前まとめた著作は『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』。そのまま素直に飲み込めないネーミングであるが、読み手の興味をそそるのは間違いない。沖縄には全国的に知られるべき事実が数多く埋もれた状態にあり、それどころか特に沖縄戦については消し去ろうとする潮流が強まりつつある。これに少しでも抗うためには、佐野氏のように著名な書き手によって掘り起こされ公表されなければならない。

 本書では、過去の事実としての戦争というより、今も生きる人を揺さぶる戦争に焦点を当てる。戦争体験が深い心の傷となり、平和の時代になっても人生を歪め続ける。現在もPTSDなど精神の病に苦しむ人がいる。体の傷と異なり心の傷は外から見えにくく、本人が口を閉ざす場合が少なくないため社会の注目を集める機会があまりない。また、沖縄戦を住民が国のために進んで身を捧げた戦争として美化しようとする潮流も静かに進む。本書では、第一章「『援護法』という欺瞞」の中で、旧日本軍によって集団自決や、壕からの追い出し、食糧の略奪などの被害に遭った民間人も、戦闘参加者として援護法の対象となり、靖国神社に祀られ遺族が年金を受け取れるカラクリを解き明かす。(T)

※本書は 当サイトで販売中。本の価格や状態は「沖縄の社会・歴史」の<沖縄戦史>コーナーでご確認ください。ご注文は「お問い合わせ・ご注文」コーナーへ

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