強烈に海外へ憧れた日々 小田実著『何でも見てやろう』①

 朝日ジャーナルに連載されていた『二つの「戦後」を旅する』が、最初に読んだ小田実の文章だったと思う。以後、学生時代に彼の本を続けて読むことになったが、本書はこれまで読んだことはなかった。最近、次に何を読もうかと考えながら、自宅の本棚を眺めるうちに見つけたのである。確か、彼の出世作だったはず。にもかかわらず、買った後まったく手をつけずにいた。買ったことすら忘れていた。

 懐かしい気分でページをめくると、自分が小田実から大きな影響を受けたことを改めて実感した。権力には媚びず、何があってもうろたえない。外国を自分の目で這いつくばるようにエネルギッシュにみてやろう。そんな著者の意気込みが、個気味良いリズムの文章でつづられる。

 海外に出てモノを書く仕事をしたいと考えるようになったのも小田実を読んだ頃であり、かなり彼に憧れた面があった。こんなモノ書きになるぞと意気込んだ。と同時に今思うのは、いくら小田実になろうとしてもなりきれるものではないということ。ここ数年、自分の小心者ぶりやものぐさぶりを痛感している。そのせいだろう、本書を買ったにもかかわらず、知らぬうちに遠ざけていたようだ。

 改めて読むことになったのも、若気の至りで小田実に憧れていた自分を、少し距離を置いてみられるようになったおかげかもしれない。こうした心境の変化が反映されるのも、読書の面白さだろう。小田実に似せたものになっても、しょせんまがい物。こんな簡単なことに気づくのに20年以上かかるとは。自分の愚かさにあきれるばかりであるが、背伸びして見栄を張ってきた自分も受け入れられる余裕も多少はできたようだ。(T)

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