影に暮らす人々に光を 宮本常一著『辺境を歩いた人々』

 本書で紹介される4人は、江戸中期から明治期にかけて当時は辺境と呼ばれた八丈島、蝦夷地、みちのく、琉球諸島を旅している。現在ならば「辺境」を旅するのは物珍しいモノを見て体験したいというのが動機の大半だろうが、この4人は、国全体をよくするためにも辺境の地に光を当てなければならないという使命感に駆られていた。

 本書の最後に登場する笹森儀助は、北は千島列島から南は八重山諸島や台湾まで踏査するが、最初の千島探検に出かけた時は47歳を過ぎていた。現在でも40代半ばともなれば生活や地位の安定を求めたくなるが、儀助は生活の保証はもちろん、身の保証もない生き方を選ぶ。その1年前にはこつこつと貯めた自己資金で、九州や関西・中国地方をめぐる貧乏旅行をしていた。旅の動機を次のように記している。

 「政治家をあてにしていたのでは、いつまでたっても、日本をよくすることはできないから、自分で各地をたずね、地方のじっさいの状態をよく知り、地方にいてしんけんに国のことを考えている人たちと話しあってみることが必要だと考えた」

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